まぐれ—投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』の感想。

著者は『ブラック・スワン』のナシーム・ニコラス・タレブ氏。この本は『ブラック・スワン』の一つ前にあたる著作。

日本語の副題「投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」が的確に内容を要約している。哲学やら社会学やら心理学やら、かなり幅広い話題を扱っているが、結局のところ「市場においてトレーダーはどう振る舞うべきか」というテーマが中心にあって、トレーダーとしての自身の経験と運用哲学が根底にある。非合理的な振る舞いを繰り返す同僚たちをバカだアホだとこき下ろしながらも、実はその一部は自分自身のことで、人間はどうやっても合理的になりきれないと告白する。自分が愚かであることを理解し、受け入れた上で、うまく向き合っていく方法を身につけるしかないのだと。

この本は著者がそういう自分のやり方に、自分で納得するために書いているのではないか、と思える部分がある。結構ドギツイ文章を書く人で、読んでいてうんざりしてしまうことも多かったが(特に前半)、実際はとても正直な人なのだろう。

以下、特に印象に残った内容を6章以降から。この本は6章から俄然面白くなるので、6章までは頑張って読み進めることをお勧めする。

  • 「確率」と「期待値」を混同してはいけない。0.7の確率で1%の上昇、0.3の確率で10%下落なら、期待値は2.3%の下落だから下落にかけた方が良い。勝つ可能性が高くても、それで儲かるとは限らない。
  • 確率と期待値を混同してしまう原因の一つは、確率を習うときにコインの裏表のような対称な分布を使うから。正規分布も典型的に対称な分布。
  • 稀な事象は、めったに起こらないというだけで、起こるときには起こる。そしていつも思いがけないときに起こるので(そうでなければ稀な事象ではない)、起こったときには心理的なバイアスによって適正な値段がつかないことが多い。よって大きく儲けるチャンスがある。
  • 人間は刺激の大きさよりも刺激の有無に敏感な傾向がある。だからトータルで利益が出るかどうかではなく、「損失の回数が少なく、利益の回数が多い」ような戦略を選んでしまう(日本で毎月分配型の投資信託が好まれる理由?)
  • ある理論が「検証可能」であるということは、数量的な要素に分解して統計的に調べることができるということ。よって間違っていると証明すること(反証)はできるが、正しいと証明することはできない。「(今まで)〜ということはなかった」は「(これからも)〜ことはない」とイコールではない。
  • 科学的と言える理論は2種類しかない。(1).反証されて、間違いであることが分かっている理論。(2).まだ反証されていないが、いずれ反証される可能性のある理論。反証できない理論は科学ではない。
  • 取引戦略を立てる時も反証可能性について考えることは重要。どういう状況になったら自分の戦略が間違っていたことになるのかをはっきりさせておき、そうなったときには即座に手仕舞う(ストップロス)。

そして個人的にこの本の中で最も面白いと思ったのは、無限匹のサルがタイプライタを叩く話(170ページ)。サルが無限匹いれば、中には偶然に名作を書き上げてしまう奴が必ず一匹は現れる。ここまでは割とよく聞く例え話だ。しかしここからが面白い:名作を書き上げたその一匹があなたのもとを訪れて、自分で書き上げたその「過去の実績」を示し、パトロンになってくれと頼んできたらどうだろう!そのサルがその名作を書き上げたのは紛れもない事実なのだ。そしてその他大勢のサルたちは皆(特に目立った成果を挙げられなかったのだから当然)どこかに行ってしまった。あなたの目の前にいるのは”奇跡のサル”だけだ……。

どんなに無能な集団でも、母集団が十分大きければ、必ず一定数は成功する。成功しなかった大多数は消えてしまうので、あとから見ると成功した一部しか目に入らない(これを生存バイアスという)。よって「過去にどれだけの実績を上げてきたか」が分かっても意味がない。当初その人が属していた母集団の大きさをこそ知らなければいけない。

One Response

  1. [...] 所有意識は物質的なものに限らず、思想や宗教、アイデアなどにも当てはまる。一旦それを手に入れてしまうと、その思想なり何なりを失うことに耐えられず、実際以上にありがたがってしまう危険がある。これは「アイデアと結婚してはいけない」という『まぐれ』に書いてあった警句とも符合する。 [...]

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